はじめに

2011年4月、早春の由布院、由布岳を望む山荘に、緩和ケアとHIV臨床に携わる15名が集まりました。三木浩司を中心とした身体医療の心理臨床に携わるメンバー間の自主的なトレーニングを目的とした二日間の会合は、がんとエイズ、それぞれのグループで課題と思っていることを日々の臨床経験をもとに自由に語り、意見交換・相互理解を得る機会になりました。

数人の有志で、この会を振り返っていたときに、「自分たちの経験を伝えつつ、今回のような現場のニーズに即した学びの場を臨床に入って間もない若手心理士に提供できないだろうか」という意見がごく自然に湧き上がってきました。時代を見据えて現場で活躍できる心理士を育成できたら、また、一人職場で孤軍奮闘している心理士に明確な方向性を提示できればという思いが形となった人材育成の活動は、その誕生の場となった由布院にちなんで「由布院アカデミア」と名付けられました。

2012年12月には、二日間のトライアル研修を由布院にて実施し、その振り返りを元に、2013年10月に正式な研修として基礎編を立ち上げました。その翌年、2014年5月には、基礎編に続く応用編を開催しました。より実践的なものとして、事例検討やカルテの記載方法などにじっくり取り組んでいます。
  • 治療モデル中心の身体医療へ、新たな視点として成長モデルを導入する。
  • 患者・家族に対する個別支援のみならず、協働する多職種スタッフと包括的な関わりをもてる心理職の育成を目指す。
  • 心理士ならではのアセスメントを提案し、医療現場全体の環境整備、マネジメント・コーディネートができる人材を育成する。
  • 地域の様々なリソースと連携し、医療現場・地域の現場で他職種の支援を行い、スタッフのグリーフケアをはじめスタッフ研修の開催などリーダーシップがとれる人材を目指す。
  • 基礎編と応用編の二段構えの研修を実施する。
  • 実践的な内容のプログラムを通し、現場で直接役立つものとする。
  • 事例を中心とする。
  • 受講生のフィードバックを重視し、それを次の活動へと還元する。

由布院アカデミアの仲間

今から30年ほど前、精神科医としての研修をスタートできたことはとても幸運でした。カルテにDSMのコードを記入する最初の世代となった一方で、神田橋條治先生の「精神科診断面接のコツ」と出版されたばかりの中井久夫先生の著作集が入局時の必読書でした。登場したばかりのエビデンス主義と新たな装いを持ったナラティブな考え方が出会った時期でした。お互いに支えあう二つの流れですが、前者が効率よく伝播されるのに比べ後者を伝えていくことには多くの困難がありそうです。そのため30年後の今、そのバランスが大きく崩れてしまった印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。一人一人の今の時間が重い意味を持つ緩和ケアやHIVの臨床では、後者にかかわる技術は大切でしょう。技は一代限りかもしれません。しかしその雰囲気を感じることで新たな自分だけの技を作り出していくことは可能でしょう。由布院アカデミアはそうした思いで集まったメンバーが構想を練り、プログラムを作ってきました。エビデンスに基づいた技術を伝える場はずいぶん多くなりました。その一方で、参加者がそれぞれの技術を自由に工夫し改変していける力を育む場はあまり多くはなさそうです。そもそもそうした場は小さく、目立たず、少数でしか維持できないのでしょう。由布院アカデミアの活動がそんな場を提供していければと願っています。

由布院アカデミア 代表 三木浩司

三木浩司
由布院アカデミア代表
(財)平成紫川会 小倉記念病院 緩和ケア・精神科 精神科医
昭和61年久留米大学医学部卒業。平成11年小倉記念病院 精神科部長。日本精神神経学会専門医、臨床心理士。久留米大学准教授。

もともとは生物学的研究を行っていました。たまたま大学院在学中にがん患者の心理的な問題とかかわることになりました。大学の先輩にあたる故河野博臣先生が始められた日本死の臨床研究会や日本心理臨床学会での自主シンポジウムで学んできました。緩和ケアではひとりひとりの人生が大切になります。そこでは統計的に処理された情報はほとんど参照できません。そのような事態に対応できる能力の育成を目指して由布院アカデミアの立ち上げにかかわることになりました。

加藤真樹子
由布院アカデミア副代表
JA大分県厚生連鶴見病院 臨床心理士

大分大学大学院教育学研究科修士課程修了、別府大学大学院非常勤講師

大学病院精神神経科、地域における精神科医療及びリハビリテーション医療の現場を経て、2011年より鶴見病院に勤務。現在、がん医療を中心とした身体疾患の医療分野で、緩和ケアを主とした多職種チーム医療に取り組んでいる。

ヒ トをひとつのまとまりとして全体性として捕らえることで、心理臨床のアセスメント「力」はどの臨床領域でも役立つ資源となるでしょう。身体と心理社会的な 視点を統合し、生活者としてのヒトをどう見立てるか、アセスメントの技や介入の工夫を皆さまと探求し、具体化したいと思います。多くの語らいを共にする中 で気づきが豊富に生まれますように。

矢永由里子
由布院アカデミア事務局長
慶應義塾大学医学部感染制御センター 臨床心理士

九州大学大学院人間環境学府臨床心理学コース博士課程卒業

現在医療の環境は大きく変わりつつあります。チーム医療が当たり前、多職種とのコミュニケーションは必須、地域連携における地元関係者との繋がりの模索など「見えない」動きが現場ではそこかしこに出ています。そこで働く心理職の動き方とは?大勢の多職種のなかでどう発言したら良いか?自問は続きます。卒後5年が経ち、もう一度医療における心理臨床のあり方を、同じ立場の仲間と見つめ直し、試行錯誤で進んできた先輩講師と意見を交わし、今後の自身の取り組みについてじっくり考える機会を持ちませんか?私たちは、アットホームな雰囲気で、受講生・講師共に学び合う研修を目指しています。多くの方の参加をお待ちしています。

いとう けいこ
フリーランス、公衆衛生家

予防から治療、行政の現場を渡り歩き、現在は生活習慣や過労に関連した健康相談を地域や診療所ベースで展開するための枠づくりを行っている。公衆衛生領域では多職種アプローチや学際的介入が日常であるが、その思想が実地医療の現場で根付くのか見守っている。

個別の治療関係だけでなく、取り巻く医療者や環境までズームアウトしながら解釈できたら、臨床家の皆さまにとっても素敵な体験でしょう。普段とは違った目線から、人・場・役割の理解が一歩、一歩深まればと願っています。

井村弘子
沖縄国際大学総合文化学部 教授、臨床心理士

九州大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得後退学

総合病院小児科臨床心理士、法務省鑑別技官などを経て、現職。本務の傍ら、2002年から沖縄県エイズカウンセラーとして、拠点病院等での派遣カウンセリングに従事。HIV陽性者グループミーティングのサポートスタッフとしても活動している。

病気になったとき、人は周りの人間関係や自分の生き方について、新たなまなざしを向けるということを、これまで出会った患者さん方から教えていただきました。病とともに生きる人々の心情を理解しつつ、生活・療養への伴走ができる支援者でありたいと思っています。日々の実践を支える学びの場として、このアカデミアの活動を大切にしています。

栗原幸江
がん・感染症センター 都立駒込病院 緩和ケア科 心理療法士

コロンビア大学大学院ソーシャルワーク科修士課程修了

NY州認定ソーシャルワーカー及びマッサージセラピスト

米国の大学病院及び緩和医療専門病院にて臨床経験を積み、静岡がんセンター開設に伴い帰国。当初から病院全体で取り組む多職種チーム医療の文化の中で、がん患者・家族への包括的支援およびスタッフのサポート、教育・研究に携わる。2012年4月より現職。

医療の現場は日々是応用問題。広い視野、読み解く力、そして伝える力が求められます。多職種チームの一員として働く刺激と喜び、技やこころが磨かれる臨床の深さ面白さ、ともに学び成長する喜び、由布院アカデミアがそういったものを仲間と分かち合える場となるといいなと思います。

小池眞規子
目白大学人間学部・大学院心理学研究科教授 臨床心理士

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了

国立小児病院神経科、東邦大学医学部付属病院小児科、国立がんセンター東病院の心理職を経て2001年より目白大学勤務。

「unlearn」(学びほぐす)ということばが気に入っています。「unlearn」は「integrate」(統合)につながることばのように感じられます。心理臨床はこれまで学んだ理論や知識、技法をいったん学びほぐし、それぞれの場面にふさわしい形を織り上げ、統合していくことの繰り返しであると考えています。こうした作業を丁寧に繰り返すことが、真にクライエントに寄り添う臨床につながってほしいなと…。

長友隆一郎
国立病院機構 山口宇部医療センター 心理療法士

山口大学大学院教育学研究科修士課程修了

平成10年、山口宇部医療センター緩和ケア病棟開設時より緩和医療に従事。がん患者・家族のメンタルケアやスタッフのメンタルケア、依頼があれば、精神科外来にて遺族カウンセリングも行っています。近年の緩和医療の多様化(緩和ケア病棟のみならず緩和ケアチームや在宅緩和ケアといった様々な場面でのニーズに沿った役割)にチーム医療と一員として貢献するためにはどのようなスキルが必要か、共に感じ、考え、共有できるような体験的学びの場を提供していきたいと考えています。皆様との出会いを楽しみにしています。

服巻豊
広島大学・大学院教育学研究科 教授、臨床心理士

九州大学大学院人間環境学府退学,博士(心理学)

由布院アカデミアの活動は,現場のベテラン実務家の先生方が集まってプロフェッショナルとして真に必要な臨床現場のスキルを概念化・テキスト化し,事例を中心に据えた受講生と講師の臨床体験をうまく融合するような素敵な学びの場と思っています。私は,そうした活動に動き出された臨床家の先生方に感銘を受け,心臓がどきどきしたことを今でも覚えています。ひとに出会い,新しい側面の自分に出会い,そしてひらめき,つながっていく。。。

福地智巴
静岡県立静岡がんセンター 医療ソーシャルワーカー

筑波大学大学院 教育研究科 カウンセリングコース修了

1996年よりがん・緩和領域に携わり、都内のホスピス・緩和ケア病棟で勤務する中、診断時からの患者・家族支援の必要性を痛感し、がん専門病院の現職へ。

魂の営みの一部に触れ、互いに響き合いながら成長していけるこの仕事をとても尊く感じています。一緒に歩みませんか?